世にも奇妙な物語

閉鎖病棟に移り、穏やかな生活を営んでいたある日のこと。
テレビの前に、黒いヘッドフォンを付けた少年が、テレビの前に鎮座していた。
年は10代後半、二十歳にはなっていないであろう。
Tシャツにジャージ、頭は坊ちゃん刈りで、一見、どこかいい所のお坊ちゃんという雰囲気だった。
耳に、高級そうなヘッドフォンを装着していた。
デイルームのソファの一番前、テレビの真ん前に座って、テレビを独占していた。
番組はというと、オリンピックの時期だったためロンドンオリンピックの中継がされていた。
少年はテレビの真ん前のソファーでオリンピックを見続けていた。
世にも奇妙な少年

まず不思議に思ったのは、ヘッドフォンで一体何を聞いているの。
テレビの真ん前に座っているため、音が聞こえないハズはない。
普通に考えると、ヘッドフォンなどいらないハズだ。
ぼくは音をたてないようにこっそりと後ろに近づき、ヘッドフォンの上から後ろからじっくり見てみた。
しかし、コードらしきものは一切つながっていなかった。
※当時は、iPhoneからBluetoothで音をイヤホンに流すようなシステムはなかったですし、閉鎖病棟にそんなものが設置されているハズもありませんでした。
ただ単に、少年は黒いヘッドフォンをしていた。
ヘッドフォンだけで音楽を聴けるような高級なヤツかと思い、観察してみたが、そのようなものではなく、音も漏れてこなかった。
少年はずっと、プールで必死に泳ぐ水泳選手たちに見入っていた。
ヘッドフォンはいったい何なのだ?
音に過敏になる症状を聞いたとこがある。
音波の逆の波を出して音を打ち消し(ノイズキャンセリング)、満員電車の中でも静か音楽を聴ける、そんなハイテクなヘッドフォンを聞いたことがある。
音が聞きたくないならなぜ音の出るテレビの真ん前にいるのか。
広いデイルーム用なので、テレビの音はかなり大きい。
音がうるさいなら離れるべきではないか。
ますます不思議だった。
世にも奇妙な少年には、まわりもさっぱり分からない

他の患者も同じことを考えていたらしく、みわたして目がある人はみな首をかしげている。
今の病棟は「特に見たい番組がある人は、チャンネルを変えても良い」という暗黙のルールがある。なので、ヘッドフォン少年が何を観ようと文句を言う人はいない。
しかし、オリンピックの水泳の北島選手のように日本人が活躍しているのならわかる。
だが、少年が見ている競技に日本人はまったく映っておらず、オーストラリアや中国やインドネシアの水泳選手が必死に泳いでいた。
少年は他の国の選手が泳ぐのをずっと見ていた。
いくらなんでもそれはない。
まわりの患者たちの不満がつのっていった。
隙を見て、誰かがリモコンでチャンネルを替え、リモコンを隠した。
少年は頭がおかしいのかと思っていたがそうでもなく、リモコンを探し、見当たらないとわかると、テレビ画面の横を探り、直接ボタンを押してチャンネルをもどした。
また誰かがチャンネルを替える。
少年がチャンネルを戻す。
何回か繰り返され、みんなの不満は看護師へと伝わった。
少年はしばらく後、どこかへ連れ去られた。
「大部屋で共同生活はできない」と判断されたのか。
以来、まったく少年の姿を見ることはなかった。
ヘッドフォンはなんだったんだろう。それだけは知りたかった。
摩訶不思議な病気もあるもんだ・・・・・・
まとめ
・何回も精神病院入院しましたが、これはさすがに何の症状かわかりませんでした。
・テレビのチャンネルに固守すること、少年であることから発達障害ではないかと推測できます。
・発達障害はよく入院していますが、自分の殻に閉じこもっていることが多いです。テレビの真ん前、ど真ん中に座ることは珍しいと思います。とりあえず、迷惑。