

精神疾患患者を観察する

6日目。
アルコール離脱症状のせいか、保護室に閉じ込められていたかどうかはわからないが。
まだ、テレビのアナウンサーの声が頭に入ってこない。
右から左へ筒抜ける。
マンガ雑誌を見ても、内容が頭にはいってこない。
小説をよんでも、2、3行しか追えず、1ページも読むことができない。
まだアルコール離脱症状が残っているようでまったく集中ができない。
なのでデイルームで他の患者たちを観察して時間を潰すことにした。
奇妙な精神疾患患者がいた

昨日まではいなかったのだが、デイルームの隅のほうに少年がいた。15~16歳だろうか。高校生くらいだ。
大人でも辛い病院なのに、なぜ少年が閉じ込められているのだろう。
その少年の後ろに2人の看護師がいた。まるで見張っているようだった。
とつぜん、その少年が声をあげた、いや、「奇声」という表現がふさわしい、声をあげた。
普通の人が怒鳴ったり、わめいたりするのとはまったく違う。
「キィィーッ! パキャッ! キィーッ!」
と、猿が発声しているようだった。
そして奇声をあげながら、飛び跳ね始めた。
飛び跳ねてデイルームの角に行き、「パン パンッ」と手を叩く。
また「パキャッ! キィーッ!」と奇声をあげる。
また飛び跳ねてデイルームの真ん中にもどり、「パンッ パンッ」と手を叩く。
また一か所で飛び跳ねつつ「キィーッ! キィーッ!」を奇声をあげる。
大人しくテレビを観ていた他の患者たちは、呆然とし、あっけにとられていた。
もちろんぼくも、あっけにとられていた。
まるで動物園の檻の中

まるで動物園の檻の中、テナガザルのようだった。
また「キィィーッ キィィーッ!」と奇声をあげながら飛び跳ねる。
みかねた男性看護師2人が追っていき、取り押さえた。
そのまま両肩をつかみ、保護室のほうに引きずっていった。
テナガザルと飼育員のようだった。
または映画の猿の惑星のようでもあった。
看護師も考えて、デイルームで雑談している患者たちのところへ入れて行けば大人しくするかもしれない、そういう思惑で連れて来たのかもしれない。
ひどい精神疾患の患者

ところがテナガザルは興奮して逆に暴れはじめたようだ。
この精神疾患あまりにもひどい、重度の発達障害かもしれない、もはや人間ではない。
親はどういう気持ちで育ててきたのだろう。
喋れない、奇声をあげる、飛び跳ねる、手に負えない。
ペットの犬のほうがマシだ。
養護施設にでも入れてたのだろうか・・・・・・そして施設ですらその少年の対応ができなくなり、精神病院に連れ込んだのだろうか。
腹を痛めたわが子を精神病院に入れる、親が可哀そうに思えてきた。
「パキィーッ! キィーッ!」
「パンッ! パンッ!」
保護室の廊下で、また奇声が響きわたっていた・・・・・・